乙女ゲーム企画SS ウパラ・サフィルス編
- リブラ
- 2024年4月1日
- 読了時間: 5分
ウパラ編
「ねぇ、どこにいくの?」
草木に影が差す。
日も暮れつつある時刻。私は管理する宝石の一人であるオパールのジェミナイ、ウパラと共に森を歩いていた。
この森の先には少し高い丘がある。
それを知っているのは私だけで、ウパラは不安そうな顔で私についてきている。
彼に不安な顔をさせてしまっていることを申し訳なく思う気持ちも勿論あるが、それ以上に私には彼に見せたいものがあった。
サプライズというと少し強引が過ぎるのかもしれない。
それでも彼には驚いてほしかったから、何も言わずにここまで連れてきてしまった。
事の発端はウパラと行っていた面談でのことだ。
彼らと過ごすようになって欠かさないようにしているこの面談は、彼らの様子を知るために重要なものだと思っている。
最初は中々話してくれなかった子たちも最近は少しずつでも自分の事を話してくれるようになった。
ウパラもその一人で、以前は話してくれなかった過去の話をしてくれた。
そんな彼が呟いた一言が、今回の外出へ漕ぎだすきっかけだったのだ。
「昔住んでいた場所は、星空が綺麗だったんだ」
面談を終わろうと思っていた時の事だ。
彼は苦笑を零しながらそんなことを呟いた。
DearBirthのある場所は都会だ。
最近は排気ガスや建物の光の影響で綺麗な星空なんて見る機会が減ってしまっている。
だからだろうか、あまりに寂しそうにつぶやいた彼の顔を私は忘れられなかったのだ。
いつの間にか辺りは暗くなり、虫や木のさざめきのみが耳を刺激する。
そんな音が大きく聞こえる自然の中、見えてきた出口に私は指をさした。
不安げだった彼の顔が少しだけ明るくなる。
もう少しだ。
疲れ始めていた足にゆるりと力が入る。
私はウパラの手をとり、出口を目指して歩みを進めた。
ザッと風が吹き抜ける音。
森を抜けた先の丘では隠しきれないその景色に、隣から息をのんだ音がした。
ウパラが先ほどまでの疲れを感じさせないくらいの速さで進む。
私もそれに続いて丘の上へと登って行けば、そこにあったのは目を覆うほどの星空だった。
「綺麗……」
目を大きく見開いて、少し潤んだように言葉を零したウパラ。
その横顔は、ここまで来るために負った疲れを吹き飛ばすほどの喜びを与えてくれるものだった。
私が悪戯に「ついてきてよかった?」と問えば、彼は満面の笑みを浮かべ頷く。
ほかの宝石たちと違い個の色を持たない彼は、この満天の星空を見て何を思ったか。
「……また、一緒に来たいね!」
彼のその言葉に、答えが隠れているような気がした。
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サフィルス編
キラキラと反射した光が瞳に映る。
横に長い机に載るのは色とりどりの天然石で、それが留守をお願いした彼らを彷彿とさせた。
ぼーっとそれを見ていた私の意識を引き戻したのは、今回の外出の提案者であり私をここまで連れ出したサフィルスの声だった。
「何をぼーっとしているのよ。ほら、こっちに来なさい?」
私の手を引き、私を姿見の前に立たせる。
眉間に皺が寄るのも気にせずに、彼はいくつかの天然石がついたアクセサリーを代わる代わる手に取り私の前にかざす。
あれでもない、これでもないと彼は真剣であった。
私たちがこうなるに至った経緯は今朝にある。
いつも通りに目覚めて、朝の支度をしていた時分。廊下で偶然会ったサフィルスとの会話をしていた後、彼から外出に付き合ってほしいと言われた。
特に予定のなかった私は二つ返事で頷く。
あれよあれよと話しは進み連れてこられた先はこのアクセサリーショップであった。
私もいまいち状況がつかみきれていないのが現状だが、真剣なサフィルスの気迫に押されて黙ったままになっていた。
彼の唸る声と店外の雑踏だけが場を支配する。
ある程度悩んだあと、答えが出たのか彼は小さく頷き一つの天然石のついたペンダントを私の手に渡した。
「これが似合うと思うわ。ほら着けてごらんなさい?」
言われるがままにペンダントを試着する。
胸元で光る色は青。
その色はどこか上品さを兼ね備えており、ワンポイントとして私を飾ってくれる。
「やっぱりね。とても似合っているわ」
満足げな彼は首元からペンダントを外しすぐレジへと向かっていった。会計を済ませようとしているとわかった私はすぐに財布を取り出そうとするが、彼の大きな手がそれをやんわりと阻止する。
眉を顰め、何故なのかと問えば彼は言った。
「いつも頑張っているご褒美よ。たまには受け取って頂戴」
あまりのスマートさに何もできなくなってしまえば、サフィルスは満足げに会計を済ませに行く。
戸惑いと申し訳なさが自身の気持ちを満たした。
会計から帰ってきたサフィルスに礼を言えば彼は手を差し出し笑う。
その手には先ほどのペンダントが入っているであろう包装があった。
「なんでここに来たか、これでなんとなく分かったかしら?」
私が首を振れば彼はやれやれと口を開く。
「貴方言ったでしょう?自分に自信がないって。だから少しでも自信が持てるためのおまじないをかけに来たのよ」
言われてハッとする。それはたしかに私が吐露した弱音だった。
包装を受け取った私と目線を合わせ彼は言う。
「それを付けていれば、アタシのこといつでも思い出せるでしょう?」
「自信がなくなったらアタシの言葉を思い出しなさい?あなたはアタシが認めた女の子なの。しょぼくれてちゃ勿体ないわ」
サフィルスの青い瞳が私を捉える。
そのせいか、それとも言葉がうれしかったせいか私は無意識に小さく笑みをこぼしていた。
それを見た彼が言う。
「アタシ、あなたの笑ってる顔が一番好きよ」
「折角素敵なんだから、そうやって目一杯輝かなくちゃ」
ね?と、言い聞かせるように私の顔を覗き込んだ後、サフィルスは体勢を戻した。
なんだか自信が持てる気がした私は礼を言う。
すると彼は「ほら、行くわよ」と先を歩いていった。
その後ろ姿からチラリと覗いた耳が少し赤かったのを見ないフリをして、私はもう一度だけ笑顔を零したのだった。
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